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 翌日、仕事が休みになった私は実家に帰省した。母がアルバム整理を手伝ってほしいと言っていたのをふと思い出したのだ。  私が会社に就職した途端、母はピタリと静かになった。不気味なほど、私に関与しない。もちろん相談すれば答えてくれるし小言もついてくるけれど、以前のように口うるさいことはない。  そのおかげで、私もいくらか実家に帰りやすくなっている。  母はいつも通りに迎えてくれた。平和な食事を終え、私が自室に引っ込もうとしたとき、母がおもむろに呼び止めてくる。 「えみか」 「なに?」 「えみかは小さい頃、つらかった?」 「え?」  耳を疑った。 「お母さんね、昔、たくさんいる子供の中で平凡な子になっちゃだめだって思ってた。だからえみかには、すごく厳しくしたと思う。それについて、えみかはどう考えてる?」  私は沈黙する。母とこんな話をする機会があろうとは、思ってもみなかった。いつもは用意していたようにするっと出てくる言葉に、今は詰まる。  なんとか、思いを整理しながら答える。 「確かに、昔、すごく嫌だった」  母に動揺の色は見られなかった。予想していたのかもしれない。  なんで私は遊んじゃいけないんだろう、なぜうちは夏休みに旅行しないんだろう。理不尽に思ったことは、何度もある。  私は母の顔を見つめながら脳裏に郁也のことを思い描いた。 「お隣の家の子がね、昔の私と似てるの。自分の世界に閉じこもって生きてる。それを、その子のお母さんが心配してるの。仲のいい友達がいないって。……お母さんも、何の取柄もないぼんやりした私が心配だったんだろうなって、今は思うよ」 「そっか」  小さく、母が呟いた。なにかを堪えるようなその気配に私は微笑み、その場を去る。後ろで、母が泣いているのだろう空気の揺れが伝わってきた。
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