幸福の呪い

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「うーん、頑張って思いだすしかないか。なんかヒントとかない?」 「ヒント?」 「そう! 君の名前と関係にまつわるヒント」 「ヒント、か……」  思い出させるようなきっかけを与えていいんだろうか。このままでいたらダメだろうか。  そんな考えが頭の中でぐるぐると渦巻く。香奈にはいろいろと思いだしてほしいこともあるけれど、思いだしてほしくないことももちろんある。記憶というのはそう都合よく、思いだされていくものじゃないと思っている。良い事を思い出すのなら、彼女はきっと嫌な記憶まで思いだしてしまうはずだ。  できれば、彼女にはずっと笑っていてほしい。  何も知らないまま、ただ楽しい事だけを見ていて、感じていてほしい。 「おーい、大丈夫?」 「っ……。ごめんごめん、ヒント考えるのに苦戦して」 「そんなに難しいの? めちゃくちゃ変わった名前してるとか?」 「いや、どっちかと言えば名前はシンプルかも」 「ふむふむ、なるほどねぇ」  うっかりそう口走ってしまったが、香奈はまだ思いだす気配はない。しかしながら、クイズが楽しくなってきたのか、次から次へと質問が飛んでくる。 「何文字?」 「それは秘密」 「えー。じゃあ、濁点とか名前にある?」 「まぁ、あるかも」 「曖昧だなぁ。植物系の名前?」 「そうと言えばそう。違うと言えば違う」 「ずるくない?」 「教える気ないからね」  そう言えば、香奈はむっと頬を膨らませた。子供みたいで愛らしい。思わず吹き出せば、香奈はジト目で僕を睨んだ。
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