幸福の呪い

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 今の僕は、果たしてどんな顔をしているだろうか。  心臓がうるさかった。道端を走る車のエンジン音がやけに大きく聞こえる。蝉の声も、なにもかも。  話したら、香奈は全てを思い出してしまうだろうか。けれど、この不安定な状態のまま、何も答えを得られないのはきっと苦しいはずだ。  香奈には身よりがない。幼い頃に両親を亡くしているし、育ての親である祖母は一昨年他界している。そんな彼女の唯一といってもいい家族が、婚約者なのだ。  その存在を伏せたまま、放っておくのは無理がある。  涙が零れそうだった。  あの事故の日みたいに。 「……香奈、ごめんね」  ゆっくりと香奈を離し、目を合わせる。涙で塗れた大きな瞳が、きちんと僕を捉えた。 「黙っていて、ごめん。よく、聞いて」  幼馴染の彼女を愛しているから。幼馴染である彼のことがなによりも大事だから。  どちらの幸せも、願わずにはいられなかった。  たとえ二人の幸せの中に僕がいなかろうと、それでもよかった。 「僕は春日井亮太。君の、婚約者だ」  あぁ、あっぱり、約束は呪いだ。
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