その1

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その1

 私には妹がいる。見た目も性格も全然違う双子の妹が……。  この妹は気が付くといつも私の側にいる気がする。お互いに公爵令嬢として厳しく育てられたものの、双子だからかいつの間にか一緒にいる事が当たり前になっていて誰も何も言わないが、私の口にする物や身に付けている物、妹は全てを把握しているようだった。どちらかというと私はどんくさく、妹は快活だったので比べられることもそれなりに多い。妹の方が聡明であると皆が口を揃えるのも、もはや日常茶飯事だ。 「ねぇ、オリヴィアお姉様。このアクセサリー下さらない?」  まるで老婆のようだとよく揶揄されるシルバーブロンドの髪をした私と違い、太陽のように美しいゴールドブロンドの髪をした妹が輝く笑顔で私の首にかかっているネックレスのチェーンを指でつまんで見せる。 「……えっ、でもヴァーマナ。これは、私の誕生日プレゼントにと婚約者様……アレックス王太子殿下から頂いたものなのよ」 「あら、だったらわたし達は双子なのだから誕生日は同じでしょう?もしかしたらアレックス様はわたしに贈るつもりだったかもしれないじゃない。どうしてお姉様への贈り物だと断言なさるの?御本人から訳でもないのに」  ヴァーマナはその可愛らしいピンクゴールドの瞳を見開いた。私の暗いコバルトブルーの瞳と違い、自信有りげに輝くその瞳はいつも妹の方が正当である私に訴えるかのようだ。 「……そうね、そうかもしれないわ。朝一番で屋敷に届いたから勘違いしたのかもしれないわね。メッセージカードにもお祝いの言葉だけで私の名前は書いていなかったし……」  ただ、婚約者からの誕生日のお祝いとして届いた物だったから自然と侍女たちが私に渡してくれただけだ。 「そういえば、わたしにはが届いていましたわ。きっとこっちがオリヴィアお姉様宛だったのよ。……ねぇ、交換してくださいますわよね?」  私の首にかかっているのは希少価値の高いと言われる紅く輝く薔薇水晶のネックレスだったが、妹が手にしていたのはどこにでもあるような一粒パールのシルバーネックレスだ。私が何も言わずボーッとそれを見ていると妹がすばやい手付きでネックレスを入れ替え、自分の胸元で輝く薔薇水晶を煌めかせて見せた。 「ほら、わたしの方が似合うでしょう?」  確かにその薔薇水晶の輝きはヴァーマナによく似合っている。ピンクゴールドの瞳を持つ美しい妹が身につけた薔薇水晶は私がつけていた時よりも一層に美しいと感じた。 「……本当だわ、あなたがつけたらさらに綺麗に見えるわ……。なんだか相応しい持ち主の手に渡れて薔薇水晶が喜んでいるようだわ」 「さすがはオリヴィアお姉様!お姉様にもそのパールネックレスはとても似合っていますわ。シンプルで地味で……お姉様にピッタリね!」  ヴァーマナが笑うとまるでそこに太陽が輝き花が咲乱れたような雰囲気になる。周りに控えていた使用人たちも「さすがヴァーマナ様」「本当にお似合いです」と口々に妹を称賛した。  そう、ヴァーマナがすることはいつも正しい。私はどちらかというと深く考えるのは苦手だ。いつもついボーッとしてしまう。そして私がボーッとしている間にヴァーマナがさっさと事を進めるのがいつもの日常なのだ。  ……そう言えば、今のアレックス様の婚約者に私が決定した時だけはヴァーマナが側にいなかったなぁ。あれは何年前の事だったっけ?となんとなく考えながら、自分の首にかかった一粒パールを指先でつまんだ。  小さくてシンプルで……淡い輝きを放つ真珠の粒。あぁ、可愛いな。と、私は素直にそれが自分の首に掛かっていることに喜んでいた。  そう、実はわたしは華やかで派手な水晶や宝石よりもこういったシンプルで控えめで、つまりは地味なものが好きなのだ。……アレックス様にそれとなく訴えたけれど聞き入れてもらえなかった時はとても悲しかったっけれど、このパールネックレスが私宛ならばやっとわかってくれたようだ。  それにしても、誕生日プレゼントを送る相手を間違えるなんてアレックス様も意外とそそっかしい。いつもやたらと私を派手に着飾らせようとするアレックス様にはとても困惑していた。私には派手なお飾りもドレスも似合わないのに、パーティーの度にド派手な格好をさせては連れ回し笑い者にしようとする少々困った婚約者だったが、今回の事を改めて考えると、実はアレックス様はヴァーマナの事が気になるのではないか?でも一応婚約者は私だからとカモフラージュして妹に贈り物をしていたのでは……?!  あ、今日の私ってば冴えてるわ!それなのにマヌケな私は気付かず苦痛に耐えながら派手なアクセサリーにまみれていたけれど、本当は全てヴァーマナ宛だったのよ。  あぁ、なんだかスッキリしたわ。いつもボーッとしていた頭がこんなに冴えわたるなんて……まさに奇跡!長年の謎が解けた気分よ。  ……それに、もしかしたらヴァーマナもアレックス様に気があるかもしれないと思うのよね。いつもアレックス様からの贈り物をチェックしていたし、逆に私がお返しにと贈り物を選んでいると横からあれやこれやと口を出してきていた事を思い出した。  これは情熱的過ぎてはしたないとか、それでは相手を勘違いさせるとか……。うん、とにかくすごく口うるさかった。  いまから思えば、ヴァーマナは嫉妬していたのだわ。……そう思ったら、双子の妹がとても愛おしくなった。だって私達は双子なのに、ヴァーマナには未だに婚約者がいないのだもの。きっとヴァーマナはずっとアレックス様に懸想していて婚約者を作れずにいるのよ。でもアレックス様は実の姉の婚約者だから本意を告げるわけにもいかず秘めた想いを燻ぶらせて……なんだか純愛ロマンスの物語のようで素敵かも!  私はこれまでの人生の中で1番熱烈な感情が湧き上がり、いつもボーッとばかりしていた思考がハッキリクッキリした気がした。  ヴァーマナ……。私はあなたの姉としてひと肌でもふた肌でも脱ぎますわ。かわいい双子の妹のために!  まさにこれは、婚約破棄するしかないでしょう!そしてアレックス様にはヴァーマナを新たな婚約者にして頂くのですわ!
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