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 優しい手つきで頭を撫でてくれている。心地が良くて瞼が重くなる。 「起きてるんだろう」  その言葉にリディアは身体をピクリとさせる。そしてゆっくりと身体をディオンへと向けた。 「……気付いてたの?」 「当たり前だろう。お兄様はさ、何でもお見通しなんだよ」  マリウスの話が終わり重苦しい空気の中、皆一様に無言で部屋から出て行った。部屋に残ったのはリディアとディオンだけだった。 「はい、はい。スゴイスゴイ~」 「お前、絶対莫迦にしてるだろう」 「流石、お兄様~お見通しね」  久々のディオンの軽口に、思わず笑みが溢れた。だがそれも一瞬の事で直ぐに眉を顰める。 「……ねぇ、どうしてあんな事言ったの」 「あんな事?」 「ちょっと……何でもお見通しなんでしょう?」  リディアは呆れ顔でため息を吐く。するとディオンは目を細めリディアの頭、髪、首と手を伝わせ最後に頬を撫でてきた。 「冗談だ、分かってるよ。何? もしかして拗ねてるの? 拗ねるなよ。だって仕方ないだろう? 本当の事なんだから。……お前の為なら俺は何だってする。例えお前が泣き叫び嫌がろうとお前を護る為なら俺は……誰であろうと殺す」  物騒な物言いをする兄だが、その声は酷く甘く優しく聞こえた。それはまるで愛を囁かれている様にすら思える。  ただリディアには何と返すのが正解なのか分からない。自分の為に誰かを殺すディオンを見たくない。自分の為に死ぬ誰かを見たくなどない。だがディオンの覚悟が痛いくらい伝わってくる。情け無いがそれを拒む事すら出来ない。  リディアは瞳を伏せ黙り込む。すると不意にディオンに抱き締められた。 「ディオン?」 「……ダメだ。やっぱり、俺には……無理だ、嫌だ。出来ない」  独り言の様に呟くディオンに、リディアは戸惑いながらもおずおずと兄の背に腕を回した。  久しぶりに触れた。兄の匂いがする。逞しい身体に抱き締められて、頭がくらくらしてくる。 (あぁ、やっぱりディオンが好きだ)  そう改めて実感した。そしてこの時僅かにディオンの腕が震えている事に気が付いた。 「リディア……お前を手放すなど、俺には出来ない……お前がいないと、俺はダメだ」 「ディオン……」 「…………逃げよう、リディア。俺と一緒に」  兄からの意外な提案に大きく目を見開いた。 「このままだと、お前は国王に殺されるか……王太子妃になるかどちらかだ」  正に天国と地獄。だがリディアにとってどちらに転がっても、地獄と違いない。 「リディア……俺に、ついて来て欲しい」  リディアは静かに頷いた。そこに躊躇いや不安は無かった。兄が一緒なら何も怖くなどない、そう思えた。 (ディオンが一緒なら、何があっても私は幸せだから)
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