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「お帰りなさい」  リディアは帰宅したディオンを笑顔で出迎えた。ディオンから手荷物を受け取り中身を覗く。 「あ、リンゴだ」  紙袋の中には沢山のリンゴが入れられていた。真っ赤で艶があり美味しそうだ。 「貰ったんだ、店の人に」  ディオンはよくこうやって買い物に寄ると、何かしら貰い物をしてくる。必ず女性から。 「ふ~ん。相変わらずモテモテで羨ましい限りですねー」  可愛くないとは思うが、苛っとするので仕方がない。 「何、お前妬いてるの?」  そう言いながら抱き締めてくる。ディオンの匂いだ、酷く安心する。 「自惚れないでよ」 ーーあの日から一年経った。  神殿から逃亡し、辿り着いたのは国境沿いの辺境の地だった。ディオンが何処からかこの小さな小屋を探して来て、そこに二人で暮らし始めた。町までは少し離れている。ディオンは毎日早朝に働きに町へと出掛けて、夕暮れには帰って来る。  リディアはまだ町へは行った事がない。本当は行ってみたい気持ちはあるが、ディオンが許可してくれない。心配性過ぎて困った兄だ。だが必要な物は全てディオンが用意してくれるので不便はない。 「今、ご飯作るから」  ただリディアも何かしたかった。料理も掃除も全てディオンがしてくれる。一日働いて疲れて帰って来て、それから料理をするのもディオンだ。リディアは毎日、馬とただ留守番しているだけだ。 「たまには私が……」 「嫌だよ、お前焦がすだろう」 「ゔぅ」  結局何もやらせて貰えない。いや何も出来ない自分が悪いのだ。 「美味しい!」 「俺が作ったんだから当たり前だ。お兄様は、何でも出来るんだよ。どう? 惚れなおした?」  リディアの言葉に気を良くしたディオンは、得意げに鼻を鳴らす。 「はい、はい。惚れなおしましたー」 「相変わらず減らず口だな」  二人で談笑しながら食べる食事は格別だった。 「リディア、おいで」  一日の終わり、後は寝るだけとなる。ディオンは決まってベッドに座るとリディアを手招く。何をするかなんて今更言われなくても分かりきっている。だが未だに慣れない。恥ずかし過ぎて心臓が煩いくらいに脈打つ。きっと今、顔は熟れたトマトの様に真っ赤に違いない。 「あ、あの」 「リディア……口付けしたい」  返事も待たずにディオンの唇を重ねられた。何時もディオンと口付けする時は、息が出来ないくらいに激しく貪られる。 (食べられてしまいそう……)  薄目を開ければ、夢中になって口付けをするディオンがいる。その姿をいつも愛おしくて可愛いと感じていた。  口付けたままベッドに二人で転がり、ディオンは優しくリディアの身体に触れてくる。  初めての時、それはもう緊張した。何をされるか分からず、未知の事に不安も恐怖もあった。だが普段意地悪なディオンからは想像できないくらいに優しくしてくれた。でも途中から急に激しく求めてくるディオンに、如何に自分の事を愛してくれているかを思い知らされた。 「おい、何考えてるんだよ。俺と抱き合ってるのに、別の事考えるなんて、随分と余裕になってきたね」 「違うっ……私はディオンの事をっ」  更に激しくされ、もうこれ以上何も考える事は出来なくなる。頭が真っ白になる。 「リディアっ、愛してる、リディア、リディアっ……」  甘い声色で、名前を呼ばれる度に身体中が痺れた。愛する人に抱かれる事の幸せを噛み締める。彼に抱かれれば抱かれる程彼に溺れて堕ちていく感覚を覚えた。  いつか読んだお伽話のお姫様も言っていた。幸せすぎて怖いとはこの事だろうか。 「ディオン……私も、愛してる」 ーーこの幸せがどうか続きます様に……。
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