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 その日も変わらずディオンはいつも通り仕事をしていた。だがその日は招かざる客が現れた。 「まさか、こんな所にいたとは」  外が騒がしいと思ったのも束の間、扉が蹴破られる勢いで開く。部屋に無理矢理押し入って来たのは、今や白騎士団長であるエクトルと、その部下数人だった。 「これは、白騎士団副団長殿……いや失礼、今は団長になられたんでしたね」  内心焦りはあったが、それを悟られぬ様に振る舞う。頭には瞬時にリディアの事を思い浮かべていた。  丁寧で穏やかな口調のディオンに彼は顔を顰める。 「思いの外、元気そうでなによりだ。それで彼女をどこに隠している」 「白騎士団長殿、見張りの制止を振り切り勝手に入られるのは流石にどうかと思うが。幾ら白騎士団とは言えど、此処は私の領地であり私の城だ。余り好き勝手されると困る」  普段温厚なカルロスが、珍しく怒りを露わにしながら少し遅れて部屋へと入ってきた。そんな彼の様子にディオンは眉を上げる。 「非礼は謝罪する。だが貴方は彼が何者か分かりながら匿う様な真似をしていた。これがどういった事かお分かりにならない程莫迦ではないと思いますが」  不穏な空気が漂う中、ディオンは席を立つ。 「彼は関係ない」  ディオンは傍に置かれていた剣を手にする。だが鞘から抜く事はなかった。何故なら……。 「ディオン、止めて」  その前に此処にいる筈のないリディアが現れたからだ。 (何故リディアが此処に⁉︎) 「リディアっ⁉︎ お前なんで……」  しかもなんて間の悪い。 「エクトル様、お久しぶりです」  リディアは部屋へと入って来ると、スタスタと歩いてきた。そしてディオンを庇う様にしてエクトルと対峙する。その行動にディオンは驚いた。 「私に何か御用でもお有りですか?」  不自然なくらいに落ち着いた様子で穏やかに笑みを浮かべてた。 「クロディルド様からの命にて、リディア様をお迎えに上がりました。また後ろにいる罪人を捕らえる様にとの事でして」 「ふふ。エクトル様は、おかしな事を仰るんですね」  鈴を転がした様に愛らしく笑い声を上げるリディアに、エクトルのみならずディオン達も目を見張る。 「罪人なんて、此処にはおりません」 「前国王陛下を殺害した男が貴女の後ろに……」 「私の後ろにいるのは、私の愛する夫です。罪人などではありません」  穏やかな押し問答に異様な空気を感じる。リディアであってリディアでは無い様に見えた。 「リディア様、貴女はこれから王妃なられるお方です。その様な輩にまだ囚われてるのか」  少し苛立った様子でエクトルは声を荒げる。 「先程からエクトル様の仰っている事が理解し兼ねます。私が王妃? ふふ」  あどけない少女の如く可愛らしく首を傾げる。 「の間違いでしょう」  瞬間、水を打ったように部屋は静まり返った。 「前国王ハイドリヒを殺害したのは、前王妃であるクロディルドです。そしてその息子である現国王セドリックは、ハイドリヒの実子ではありません。よって彼には王になる資格などありません。無論もう一人の息子であるマリウスも同様に。今王族の血を受け継いでいるのは、前王弟の実子である私だけです。エクトル様、貴女のお望み通り私は城へ帰りましょう……女王として」  流石のディオンも驚き過ぎて言葉が出ない。まさかリディアからそんな言葉が出て来るとは思わなかった。 (一体急にどうなっているんだ……何がリディアに起きたと言うのか……) 「ディオンは私のです。延いては、それは女王の伴侶と同義。彼に危害を加える事は誰であろうと赦しません。もしも彼に何かするつもりなら、危害を加えた時点で私は自害します。貴方が女王の命を奪いたいと言うならば、致し方がありません。どうぞ今この場にて彼の首を落とせばいい……私も死ぬだけです」  長い沈黙の後、エルトルは小さく息を吐いた。 「……承知致しました。誰が貴女にその様なしたかは分り兼ねますが、それが貴女の選んだ答えなんですね。……彼には何があろうと危害を加えない事を約束致します」  言葉とは裏腹にエクトルは納得出来ないのか、剣を納めようとしない。 「エクトル様、剣を納めて下さい」  その時、凛とした女の声が部屋に響いた。シルヴィ・エルディー……。一年前殺したあの男の妹だ。彼女は白騎士団員のフレッド、その他の騎士等を引き連れ部屋へと入って来た。 「シルヴィ、何故君が」 「私は自分の友人に会いに来ただけです。そして女王陛下のお迎えを……マリウス殿下から承り参りました」 ◆◆◆  今朝、ディオンが仕事へ出掛けてから程なくしてある人達が家を訪ねて来た。  これまで誰かが訪ねてくる事などなかった故、始めリディアは扉を開ける事はしなかった。 (もしかして追手かも知れない……ディオンはいないし、どうしたら……)  鍵は掛けてあるが、ぶち破られる可能性もある。安心は出来ない。慌てふためきながらリディアはベッドの下へ隠れようとした。その時だった。 「リディアちゃん……私よ、シルヴィ・エルディーよ」  その名と良く知る声色に、リディアは心臓が跳ねた。
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