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夏の日差しが照り付ける午後のことだった。
「今日が約束の日だが……」
裏路地から表通りの商店街を監視していた長身の男がぼやく。
この暑いのに黒いコートを羽織って全身真っ黒だったが、不思議なことに汗の一つもかいていない。
彼はもう一度表通りを覗く。
今度は双眼鏡を使っていた。
黒ずくめの男が双眼鏡で商店街のどこかを覗いている。
夏休みで人通りが多いこの時間帯だ。
誰か通報してもおかしくないが、誰も男には気づかない。
男は双眼鏡をおろして舌打ちをした。
「いるなぁ」
面倒くさそうにため息を吐くいた男は、商店街の人ゴミへと紛れ込む。
やがて、双眼鏡で覗いていた地点にたどり着いた。
十字路の一角だった。お地蔵さんがぽつねんと立っている。
人が敢えて避ける空間というのはじめじめしていて暗く長い間そこにいたいと思えないものだ。
そんな場所に、白い着物姿で色白の――男と対照的な真っ白い――少女が座ってぼーっと人通りを眺めていた。
「言ったよな? そこにずっといられると迷惑だからどこかいくか消えるかしろって」
少女はぼんやりと顔を上げ、男を見るや否やほほを膨らませた。
「なんであなたに指図されなくちゃならないんですか? 私は、ここにいます。ここで父と母を待つんです」
つんとそっぽを向いた少女に男はため息をつく。
「あの日説明しただろ? お前の両親はもうとっくに死んでんだよ。お前を迎えに来ることはない。わかったって言ってたじゃねーか。今日までにこの場所から消える約束だっただろ」
「でも、もしかしたら生きていて迎えに来るかもしれないじゃないですか」
むくれて反論する彼女に男は肩をすくめる。
「そしたらお前の両親はゾンビかキョンシーとかそういう化け物の類だ」
「そうですね、化け物になるのもいいかも」
ぼんやりと笑った少女はどこまで本気なのかわからない。
男は再びため息をつくと、どこからともなく処刑人が使うような大鎌を取り出し少女に向ける。
「その場合この場でお前を消し去らないといけなくなるな。前にも説明した通り俺、死神だから。霊を導くのも仕事なんだわ。さっさと成仏するか、俺の管轄外の場所で悪霊になってくれ」
うんざりと大鎌を下した彼。少女は小首をかしげた。
「……あの、死神さん。今更なのですけどお尋ねしてもいいですか?」
「なんだ?」
「私どうやら地縛霊みたいなのですが……」
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