ポラロイドにみつめられ

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 突然のインターフォンに応答すると、画面の顔は恋人の楓子だった。今日は月曜だぞ。内心僕はそう思いながら、施錠を解除した。 「こんにちは」と言って、玄関に入った楓子はスーパーの袋を見せる。食材が詰め込まれた袋を足元によいしょと置いて、セーターの袖をまくった。 「月曜じゃん」  リビングに続く廊下の明かりを点けながら僕は彼女を見ないで言う。月曜は互いに行き来をしない日というようにふたりの中で決めていた。 「一応さ、月曜はお互いの個人の時間にあてようって決めたじゃん」  楓子はうなずいて横を向く。 「うん、ごめん」  思いのほかしおらしく楓子が黙ったので、「まあどうぞ。ちょっと散らかってるけど」と声をかける。眉間にしわを寄せて、切なそうに顔をしかめた楓子は靴を脱いだ。無言だ。不機嫌になっているのは長い付き合いで分かる。僕も少し感情的に言ってしまった。  リビングで楓子は所在なさそうに立ち尽くす。僕は笑いかけた。 「ごめん。ちょっときつく言いすぎた」  楓子はまくったセーターから伸びる白い腕をさすりながら、口をとがらせてようやく僕の顔を見た。近寄って軽く抱き寄せる。楓子は『グー』にした両手で僕の背中をドンドコと叩いて「ホントだよ」と拗ねる。ごめんよ、と素直に謝った。楓子はようやく機嫌を直して笑った。 「何かいっぱい買ってきたけど、どうしたの」 「一緒に食べようと思って、いろいろ買ってきた。トモヤの好きなもの」 「え、何買ってきたの」 「へへ。じゃーんすき焼き」  楓子はラップの下で美しい赤色を光らせる牛肉パックを僕に見せる。「大好きでしょ」 「お。マジで嬉しい」  楓子は機嫌よくにっこり笑うと「せっかくの記念日だからね」と声を弾ませた。  リビングの座卓に戻った僕は胡坐をかいたまま振り返った。髪を後ろにまとめた楓子は僕に向かってピースをする。 「記念日?」 「そうだよ。まさか忘れた?」  得意げにしている顔を見上げて少し考えるが、まったく分からない。苦笑した。ふーんと言ってから彼女は少しむくれた表情で、スーパーの袋から食材を出していく。食材を一つ一つ出しながら、その都度僕をちらりと覗くように見てくる。目がツンとしている。最後に袋に包まれたバウムクーヘンを取り出して僕に見せる。 「分からないな。マジ分からない、なんだっけ」  楓子の感じから、何かしらの大事な記念日が今日らしい。しかしもちろん誕生日でもなければ、はじめて付き合いだした日でもない。全く分からない。 「ま、いいや。バツとして思い出すまで教えない。とりあえず考えて待ってて」
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