忘れ物

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忘れ物

 床の上に二人で隣どうし寝そべって、窓の向こうの秋の夜空を見ていた。 「ねえ、沙耶(さや)」 「なあに?」 「俺たちはさ、昨日結婚式を終えて今こうして引っ越してきたよね?」 「うん」  隅に積み重ねられた段ボールは閉じたまま。まだ家具も何も置かれていない殺風景な部屋で、(まこと)は呟いた。 「でも、結婚した実感ある?」 「……ないね」  私は吐息とともに小さく呟く。 「何でか、せーので一緒に言ってみようか」  そう言うから、私は微笑む。 「うん」 「せーの」 「「木製ブランコ」」  二つの声が重なると私と真は微笑む。その次に言った「だよねー」という言葉もかぶる。 「ばあちゃんの草原行こう!」  真は上半身を起こして立ち上がる。私も真の後に続いた。
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