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確かに、料理はそれなりに見える。
隣には、料理教室のキッチンがある。何故かさっきまでとは違い、美咲母はそれほど興味がなさそうにさらりと言った。
ソファの方を見ると、都和も興味がなさそうな表情で三井川の話を聞いているのかいないのか。哉有からは、かなり適当に相槌を打っているようにしか見えない。
「……美咲さん、適当すぎだって」
と哉有が思わず呟いたそれに、美咲母の眉が動いた。
「あなた」
「はい」
茶碗を置き、哉有が顔を上げた。
相変わらず、美咲母の哉有に対する呼称は「あなた」。
「あなたは、あの子を名前で呼ばないのね」
一瞬哉有は動きを止め、
「……呼べません」
「どうして?」
哉有が苦笑した。
「恥ずかしいのと、……自信がないから、です。多分」
「自信?」
こくり。
そう、多分。抱き合っている時は、確かに理性じゃなくて、ただただ本能で「呼んで」いるのだろうが。哉有が都和を求めるのと同じだけ、都和も哉有を欲しがってくれているから。
「俺には、『好き』だという気持ち以外、美咲さんと対等にいられる知識も能力も無いんです。おこがましいような気がして、……呼べないんだと思います」
「……そんなものかしら」
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