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「はい」
美咲母はちらりと哉有を見ると、最後の湯呑みを渡して都和に視線を移した。
「そんなに近くにいても、そう思うものなのかしらね」
「……分不相応、って言葉は、頭では理解しています。美咲さんに正式な奥さんが必要なこともわかってます。俺のことをこんなに気遣ってくれる美咲さんの気持ちは本当に嬉しいし、今は近くに置いてもらっていますが、気持ちだけでどうにかなるとも、美咲さんとの距離が誰かと比べて特別に近いと、……思ってはいけないことも、わかってます、から」
無意識に撫でられた、薬指の指輪。
(気遣う、ね)
美咲母の視線が少し動いた。
「さ、食べましょうか」
料理は、確かに満足できるものだった。
三井川が哉有を全く無視して都和と話をするなか、哉有は素直に食事を楽しむ事にした。はっきり言って料理は絶品だったので、これはこれ、とキッパリ切り替えたら少し気が楽になった。
(腹黒狸だけど、料理は上手だよな。天ぷらなんて、サクサク。ごはんも、いい出汁で、薄味でおいしい)
「……ゆう?」
「え?」
都和が、哉有を覗き込んでいた。
「静かに食ってるから」
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