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三井川が口を挟むと、哉有が穏やかな表情で都和を見上げた。
「いただけばいいじゃないですか。大葉の天ぷらも、すごくおいしかったです」
美咲母が小さく笑った。
大葉の天ぷらは、都和の好物だ。
結局残っていた天ぷらが大皿で出され、舞茸、大葉、海老、からすみの天ぷらは都和が、河豚とれんこん、クエの天ぷらは哉有の腹におさまった。
食事を終えると、「デザートは頼むわね」と美咲母のリクエストで都和が差し入れたものがテーブルに上がった。最近流行りの、やや高級志向のカフェで提供される商品のひとつ。きな粉を使った和スイーツがテーブルに上がり、三井川が嬉しそうに微笑んだ。平素はテイクアウトはしていないが、頼んで用意をしてもらった。
「このお店、最近できたところですよね。テイクアウトはしていないと聞いていました。開店からすぐに売り切れてしまうようで、実は私、まだこれは食べたことがないんです」
「……美咲さん」
ほとんど動いていないはずの都和の表情を読んだ哉有が小さく制すと、本人はほんの僅かに開いた唇をきれいに閉じた。
そう。いつもならばきちんと社会人の対応をする都和が、今回は「(あんなやつに)差し入れなどいらない」とバッサリ切り捨て、珍しく本当に何も用意をしようともしなかった都和の代わりに、やむなく哉有が準備をしたものだったのだ。
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