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もう一つのパンプスは柳のものだったらしい。
「あらあら、そんなに荷物を持って。それは私が持ちましょうね」
あっさりと夕食の食材が入った袋を取り上げられ、哉有は戸惑い気味にフローリングに上がった。
「お帰りなさい」
リビングに入ると、いつものように背筋を伸ばし、どうしたってセレブにしか見えない美咲母が先に哉有に声をかけた。
「……こんにちは」
やや面食らった哉有が挨拶を返すと、ソファに座っていた彼女が立ち上がった。
「体調が良くないみたいだから、要件だけね」
真っ直ぐに哉有に向き合った彼女は、
「受け取ってちょうだい」
細長い箱をそっと差し出した。
「はい?」
いかにも高級そうな、滑らかな革で作られたケース。
「あの」
「あなたを認めるわ。パートナーとして、生涯、都和を支えてちょうだい」
「へ?」
哉有の視線が、美咲母をスルーして、都和に突き刺さった。
ぐ、と押しつけられたそれを思わず受け取り、
「美咲では、お嫁さんに指輪を……石を引き継いでいくことになっていてね」
哉有の視線が美咲母に戻った。
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