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大きめの茶碗に少しだけごはんをよそい、渡されたレードルでそっと出汁を注ぐと、渡された木製のレンゲでひとさじ口に運んだ哉有の顔が綻んだ。
「おいしい」
そして、生姜を入れてもうひとさじ。
「……ふふ」
そして、小口ネギを足し。
「美咲さんも、食べるでしょう?」
さすがに都和はその美味さは知っているが、この笑顔に言われて、断れるはずがないではないか。
こくり。
「……食べる」
そして同じものを食べ始めた都和の隣で、
「これ、作り方聞いたら、教えてもらえるかな……」
小さく呟かれたそれを聞いた柳が大きく頷いた。
「奥様がね、旦那様のお母様から教わったお出汁です。哉有さんがお聞きになれば、当然、お教えになりますよ」
哉有さん。
ふ、と哉有は美咲母のそれを思い出した。
「哉有?」
「あなた」でなく「哉有さん」。初めて名前で呼ばれた今日。
ソファの前にそっと置かれた、まだ当事者の名前が書かれていない婚姻届に視線をやった哉有の唇が、僅かに笑んだ。
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