3.入試

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3.入試

入試当日。私は付箋がたくさん貼られている、幾つかの参考書をリュックに詰め込んだ。蓮の言葉が、忘れられなかった。一位を取れよ、という言葉。黒い目は清く澄んでいて、キラリと光っていた。先生の言葉を、思い出す。 「先生たちを信じて受ければ志望校に必ず合格できますから、頑張ってきてください。」 先生たちは期待してくれている。私が北高に受かると、信じてくれている。先生たちは私のこれまでの勉強を最後まで手伝ってくれた。 中一の最初の学力テストが250点だった私。 志望校は北高、と言って笑われた私。 中二の学力テストで350点を取った私。 よく頑張ったね、と褒められた私。 中三の学力テストで490を取った私。 北高は夢じゃないよ、と言われた私。 今まで北高合格というたった一つの目標から目を背けなかった。自分と正しく向き合ってやれること全て、取り組んだ。無駄かもしれないなんて微塵も思ったことなんてない。近づきたかった。憧れていた、あの人に。 鈴木蓮に。 車からでて、会場に着くと私のようにたくさんの制服を着た学生が歩いていた。緊張したような面持ちで、ぎこちない足取りで会場へ一歩一歩進んでいた。私はこのテストで一位を取る。負けたくない。今までの努力を全部、打倒鈴木蓮をかかげる私にふさわしい結果を___。 テスト五分前。背筋に電流が走る。 汗がにじみ、体が震える。 参考書を持つ手が、頼りなくページを開いた。 不合格が怖いんじゃない。 蓮に負けるのが一番、怖い。 負けるな、私。蓮に想いを届けるんだ。 必ずできる。あと一点差のところまで追い詰めたんだ。勝てないわけなんかない。 五分は瞬きの間の如く過ぎていった。 シャーペンと桜の消しゴムを取り出し、ぎゅっと握りしめる。蓮からもらった、大切な宝物。 私は、絶対に負けない!
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