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4.桜の花びらが落ちる
桜の舞う季節。制服を纏った一人の少女は校門をくぐった。ひらり、ひらりと優雅に舞い落ちる桜の花びら。チェック柄のスカート、落ち着いた紺色のベスト。茶色の髪は柔らかで優しい風に吹かれて、なびいていた。少女は校門の近くの桜の木の下で、両手を伸ばしていた。その手に大事そうに握られているのは一つの消しゴムだった。
「北高合格、か。最初は夢にも思わなかったなあ。あんなにたくさんの人に笑われていたのに...。」
声を発したのは、優花だった。高校生特有の華やかさと進級したことによる心の清々しさが見える。
校門の近くを一人の高校生が歩いている。一枚の紙が、手によって力強く握りしめている。
「優花。なーにしてるの?」
優花は慌てて振り向く。両手を後ろに回し、平静を装っている。消しゴムのことを知られたくなかったからか?
「え、何もしてないよ?それよりも、いつのまに、そこにいたのよ蓮。」
「今来た。それよりそれ何?優花。」
「えっと、これは....」
そう言って優花は、両手をもっと後ろに隠した。優花の手にはあの時渡した消しゴムが握られていることはわかっていた。優花の隠した手に添え、手を開くように促す。
「そんなに大事にしてくれたの?」
「だって、嬉しかったから.....」
彼女の白い頬がほんのり桜色に染まる。そのおかげで自分の体の温度を誤魔化すことができた。
「そっか、嬉しいよ。」
3拍分の沈黙が流れた。お互いにどちらが先に話題を振るのか、顔色を窺っている。
「......テスト、どうだった?」
「そりゃあもちろん満点に決まってるだろ。」
「さすが、不動の学年一位。すごいね。」
「何言ってるんだか。優花も満点だよな?」
顔色が明らかに変わった。わずかに目が見開かれている。
「どうしてわかったの?」
「なんとなく。」
「優花。」
すかさず声を発する。先に言われては格好悪い。
「優花、僕と付き合ってください。」
はらりと舞い落ちる花びらに、想いを届ける涼やかな柔らかい風が吹く。
「......はい!」
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