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1,王宮への道 至言か戯言か
雷は遠ざかり、雨は次第に止んできた。嵐は去ったようだ。
マックスは戦いを終え、荒野を駆けていた。
いや~焦った。思い出しただけでも冷や汗が出る。氷の軍に攻められ、やっと退散してくれたと思ったのに、もう一度勢力を取り戻してくるとは。どこにあんな軍勢隠してたんだよ…。親友であり、友軍のハンク率いる軍が駆けつけてくれなかったら、負けたのはこちらだったに違いない。
「よかったのか悪かったのか…。とにかく最悪の一日だった。」
馬に揺られながら俺がそう漏らすと、ハンクが馬を隣に並べ、
「まぁ、終わりよければなんとやらだよ。生きて帰れるだけましさ」
と言った。
「王都まであとどれくらいかな」
とつぶやきながら顔をあげたその時、ハンクが驚いたように声を上げ、前を指さした。
「おい、マックス!あれはなんだ?人か?」
二人は馬を止めると、いつの間に近づいたのか、彼らのわずか2,3歩先に3人の人間…の様な者がいた。
「何者だ」
「やっほー!マックス!いや、いやいやいや、マックスさまぁ!!」
と、ひと際頭のおかしそうな奴が言う。
「口はきけるようだな。何者だと聞いている。答えよ」
ハンクはさやに手をかけながら静かに問う。
「きけるのは口じゃなくて、耳だもん!」
今度は一番ポンコツそうなやつが言う。すると他の二人は、「うまいこと言うじゃーんwww」だの「おまっwwばっかじゃねーのwwww」だの、こちらの困惑をよそに盛り上がっている。
「…ハンク。こいつら俗にいう“変質者”ってやつだ。それか単なるクソガキ。どっちでもいいがこんな輩無視して早く王都へ向かおう」
「ああ。そうだな。」
通り過ぎようとした俺らの前に、3人の中の、口は悪いが1番まともそうなやつが踊り出た。
「まあ、待てって。せっかく会えたんだ。ちょー――っと唄を聞く時間くらいあんだろ?なぁ、マックス?」
「♪congratulation Max. You will get Uke’s castle.(おめでとうマックス。あなたはユーク城を手に入れる)」
そいつが力強く唄う。
「♪congratulation Max. You are king!(おめでとう。あなたは王だ)」
続けて頭のおかしな奴が、意外にも妖艶な声で唄う。
ユーク?ユークとはあのユークさんか。とても賢く王の腹心であると有名だ。先代の亡き後、3年前からは我がグレーザー領は俺が治めているが、ユーク領ほどの華やかさも権力も持ち合わせていない。ユーク城に住むなど、文字通り夢のような話だ。
「ま、お前にはこんくらいだな」
口の悪い奴が言う。
しかしなぜだ。もし仮に、仮に俺がユーク城を手に入れたとして、ユークさんは王家などではなくいち領主である。俺が王の座に就くなど夢のまた夢、話の飛躍がすぎる。やはりこいつらはクソガキか。
「えー!待ってよ、せっかくきたんじゃん!!僕も唄いたいー!!」
「でも、マックスにはこれでおしまいだもん。ドンマイww」
3人はなおも話し続ける。
「いーもんね!!僕は僕で唄う!!
♪congratulation Hanqu. You will never be king, but〜 your descendants may become kings〜!!(おめでとうハンク。君が王になることはないけど〜!君の血脈からは王になるものが現れるかもね!)」
最後にポンコツが軽快に唄いあげた。
『綺麗は汚い。汚いは綺麗。良いは悪い。悪いは良い』
3人は声を揃えて言い残すとあっという間に消えた。
「………マックス、もしやあいつら、カントルではないか?」
ハンスの声は掠れていた。
「カントル?まさか」
カントルが唄ったことは現実になる。そんな話は大昔の話で、本当かどうかもわからない。存在さえ確認されておらず、子供のころ読んだ絵本にわずかに登場していたようなものだ。
「そうだよな…。今日はいろいろあった。俺もお前も疲れてる。早く王都へ向かおう」
二人は再び馬を走らせ始めた。するとまたもや前方から何者かが向かってくるではないか。
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