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【 プロローグ 】
僕はまた夢の中で溺れた。
苦しくて思わず上半身を慌ててベッドから起こすと、カーテン越しにうっすらと青白い光が差し込んでくる。
いつも見る夢。何度も見る同じ夢。
でも、この胸の苦しみは尋常ではない。Tシャツの上から胸に手を当てながら頑張って息を整えるが、しばらく呼吸が乱れ続ける。
自分の額から滝のように汗が流れ落ち、それが頬を伝い、顎からポツリと布団に落ち染み込んでいった。
この胸の痛み。昔、どこかで味わったことがある。
セミの声、冷たい水中から歪んで見える太陽の光と微かな人影。
いくつもの水色の丸いライン、夏の終わりを告げる少し涼し気な風に揺れた焦げ茶色の長い髪。
そして、まだ僅かに残る手を繋いだあの時の感触と君の匂い。
右手で胸を押さえ、あの時繋いだその左の手の平を見つめながら、ようやく普通に呼吸が出来ていることに気付く。
その開いた手の平をゆっくりと閉じると、なぜか瞳から温かいものが零れ落ちた。
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