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【 手の感触 】
「ぐわぁーっ! ゴホゴホゴホッ! ご、ごめんなさい!」
僕は思わず、眩し過ぎる美流先輩から体を離した。
しかし、彼女は尚も僕の手を握ったままだ。
(えっ!? 何で手を握ったまま……?)
「颯流くん、飲んだ水を全部吐き出した方がいいわ」
「はっ?」
彼女はそう言うと、もう一度僕をその豊満な胸に抱き寄せると、プールの端までやさしく誘導して、僕の背中を擦って介抱してくれた。
「大丈夫? 颯流くん」
「えっ? 何で僕の名前を知ってるの?」
「えっ? それは……。っていうか、もう全部水吐き出した?」
「は、はい……」
「じゃあ、ゆっくりと深呼吸してみて」
「スーッ、ハーッ」
これはデジャヴか。それとも、このこと自体が夢なのか?
――その後、僕は念のため保健室へ運ばれてベッドの中で寝かされていた。
後で聞いた話だが、当然僕らのチームは最下位。
3年生は、美流先輩が大活躍して、メダルを5つもゲットしたらしい。
ベッドの中で目を瞑りながら、いつも見る夢のことを考えていた。
あの手の感触とあの懐かしい香り……。
いつも見る夢で助けてくれたのは、小さい頃の美流先輩だったのか……。
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