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圭太が塾から帰ると、マンションの前が騒がしくなっていた。街灯が照らし出すのは一台のパトカーと井戸端会議をする主婦の群れ。圭太の母親もその輪の中にいたので、圭太は近寄ってエプロンの端を引っ張った。
「お母さん」
「あら、おかえり」
母は周囲にさっと視線を走らせるなり、身を屈めて囁いた。
「圭太、由香ちゃん見てないよね?」
由香は同じマンションに住む小学一年生の女の子だ。遊んであげたりはしないけれど、高校生の圭太は何かと世話を任されることも多かった。
「見てないけど。由香ちゃんがどうかした?」
圭太は母親がいつになく神妙な顔をしていることに気が付いた。
「由香ちゃんね、まだおうちに帰っていないらしいの。今、警察と消防団の人が捜索してるのよ」
時刻はすでに夜の八時を回ろうとしている。クラスメイトとは途中まで一緒に帰ってきたというから、この時間になっても家に着いていないというのは、明らかに異常な事態だった。
「俺も捜索手伝った方がいい?」
「ううん。ご飯あるから先に食べちゃって。父さんと母さんはもう少し手伝いがあるから」
「わかった」
階段に向かいかけ、圭太は振り返って母に訊ねた。
「……叔父さんは?」
圭太は母が一瞬嫌悪を顔に浮かべたのを見逃さなかった。
「お昼に帰ったみたい」
その返答に少し安堵する。
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