あの夜の約束

1/1
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

あの夜の約束

 今でも忘れることはない。  月と海の狭間のあの夜を。  あの日交わした約束を。 「誓います」  参列者は海。  神父は月。  ぽっかりとあいた口の中に、爛々と一つの目が光っているような月明かりが、波間に揺れて私たちを見守っていた。  呑み込まれそうな闇はひたと横這いになって、アクビをするかのように優雅で。  私が誓うと、はにかむように彼はくしゃりと笑った。  その笑顔が好きで好きで。  私はこの先何があっても、この笑顔を守りたいと思った。 「「愛している」」  同時に発せられた言葉は、潮騒に掻き消されることもなくただ胸を熱くする。抱きしめあった体温は何も持たない私たちにとって、唯一の希望だった。  真夜中に二人きり。  それは、これ以上ないほど幸せな結婚式。 ───どうしてこうなったか  原因はすべて、一週間前にある。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!