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あの日の約束
───どれほどの月日が流れたことだろう。
故郷から遠く離れた空の下。今日は少し肌寒い。
秋晴れが高く爽快で……ああ、今日も本当に「死ぬのにいい日」だ。
毎日がいい日で。
毎晩がいい夜で。
今朝もおはようと言い合って。
今夜もおやすみとキスをして。
だからいつも幸福を間違えずにいることが出来た。
「………頑張ったね」
細く流れる線香の煙が、迷わず貴方の行く先を導いてくれるだろう。
歳の差の分だけ、私も貴方のあとを追うから。
だからあと少しだけ待っていて欲しい。
そうすれば念願の同い年になれたって。
あのくしゃりとした笑みで、私を迎えてくれるでしょう?
「あと少し」
夜の波止場。
月明かりの下。
闇と波の淵で奈落からの手招きを感じながら。
不安と決意がぐちゃぐちゃに掻き混ざった、あの。
二人きりで挙げたあの結婚式を───もう一度。
「早く会いたいなぁ」
今でも忘れることはない。
あの日交わした約束を。
参列者は海。
神父は月。
あの夜の誓いは、今もここに。
「私だけが、貴方の───」
それは畏怖と喜びをもって。
今でも高らかに胸の奥で祝福の鐘を鳴らしている。
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