本当に帰らない

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本当に帰らない

 駆け落ち当日。  天気は晴れ。  爽やかな風が吹く涼しい日だったのを覚えてる。  いつもの時間に起き、いつものようにご飯を食べ、いつも家を出る時間になった。  いつもよりちょっと大きなバッグを肩から下げて玄関に立つ。不審がられなかったのは、部活動のおかげだろう。  この日。  家を出る直前。  胸に不思議な気持ちが去来した。  ───私はもう二度と、この家の敷居を跨ぐことはないんだろうな  悲しさといたたまれなさ。嫁に行くというのはこんな感じなんだろうかとすら思った。  ……ああ、ああ。これ以上この心情を形容できる言葉を私はまだ持てそうにない。 泣きたいような、惜しむような……後悔とはまた違ったこの寂寥。  覚悟を決め、私は出来るだけいつも通りに「行ってきます!」と言って家を出た。  戻ることはないと決めた、愛しき我が故郷よ。
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