171人が本棚に入れています
本棚に追加
(ここか…)
町のはずれに広がる雑木林に呑み込まれかけたその廃屋は、外壁のあちこちが崩れ、窓ガラスはすでに無く、室内まで風雨に晒されて朽ちていた。
夕聖はすらりとした足で窓枠のひとつをまたぎ越し、慎重に屋内を検分した。夕聖の任務は怪異の調査と解決だが、人間が隠れ住んでいた場合は接触せず、依頼人を通して警察に通報することになる。
だが、もしも暗がりにひそんでいるのが妖だったなら…。
倒れて黒ずんだ家具の向こう側や崩れた階段の陰、そして天井の裏側に、夕聖は闇の気配を感じ取った。ふつうの人の目には見えない異形のモノが、闇から闇へと姿を半分溶け込ませながら移動している。突然の侵入者を警戒心しているのだろう。
くっと低く笑いがもれた。
(そうだ。俺は敵なのだから警戒しろ。いや、いっそ襲ってくればいいんだ)
夕聖の瞳の片側にちらりと緑の火が灯った。呼吸を整え、指先に神経を行き渡らせて待ち構える。だが好戦的な妖祓いの気配に怯えたのか、闇の気配は次第に薄れていった。夕聖から遠ざかるために棲家を捨てて逃げようとしているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!