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「下の弟が町中の川岸で見つけたんだが、探しても仲間は見つからなかった。遠くへ流れていってしまったのか、…この春に町でちょっとした事件があってな、もしかしたらこの子の仲間はもういないかもしれない」
「カッパは捕まってもはぐれても、ぼーっとしてるっていうからな。そもそも本能で群れてるだけで、仲間意識なんか無いんじゃないか」
「ああ、だが懐いたりはするようだ」
海棠の言う通り、このカッパの子どもはほとんど感情表現をしない。唯一、晴太が抱き上げて構ってやっているときに、ちょっと目を細めて小さな手で晴太の指を握るくらいだ。
「晴太が…弟が言うには、この子は川の水でないとダメらしい」
「心配するな。そのくらいは心得ているさ」
浴槽の前にかがんで、ごつい指輪を外した海棠が、水の中に手を入れた。カッパの子どもがすいっと避ける。海棠が頭を撫でようとしたら、ぷくぷくと泡をたてて浴槽の底に沈んでいった。
「へえ。面白いな。危険はちゃんと避けるんだな」
雪夜はそれを聞いて心配になり、渋い顔で咳払いした。
「海棠。ほんとうに大丈夫なんだろうな。頼んでおいてなんだが、妙な輩にイジメられたりするようなことは…」
「ないない。俺が飼うってんなら心配した方がいいが」
海棠が笑って立ち上がる。
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