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「サーカス団に売って火の輪くぐりをさせる、とか言ったら、あそこのふたりはどうするんだろうな?」
「やめてくれ。大騒ぎするに決まっている」
なにしろ晴太も白兎も、カッパの子はここで育てる、と最初のうちは言い張ったのだ。水槽から出られないカッパの子を学校や家事労働であまり構ってやれず、かえって寂しい思いをさせると分かって諦めてくれたが、もらわれる先次第ではまた何を言い出すか分かったものじゃない。
ふ、と海棠が目元を和ませた。
「最初に顔を合わせた方が『ユキ兄ちゃん』って電話口で呼んでた下の弟だろう。もう高校生か」
懐かしい呼び方をされて、雪夜も思わず口元をほころばせる。雪夜が大学に入学したとき、晴太はまだ小学生だった。
「ああ、そうだ。中身はちっとも成長してないけどな」
「おまえが昔っから年寄りじみてんだ。上の弟はどうした?」
「雨瑠なら山だ。高校まで卒業してくれたあとは気ままにしているからな。昼間は寝てるか山籠もりだ」
(留守でちょうど良かったな。暑苦しいふたりの板ばさみはごめんだ)
「そうか。良かったな、雪」
「うん?」
海棠が目を細めて、リビングを見回した。
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