171人が本棚に入れています
本棚に追加
海棠がとん、と指でテーブルをたたいた。その音が妙に大きく響く。
「覚えておけ。全部、おまえたちを守るためにしていることだ」
理解できたか、と海棠に低く問われた晴太が泣きそうな顔で雪夜を見上げてくる。
(分からなくていい)
と雪夜は思った。大人の汚い理屈は雪夜が呑み込んでいる。晴太には分からなくていい。こんな話、聞かせるんじゃなかった。
弟の頭に手を置いて、いつもよりずっと優しく、宥めるようにたたく。
「海棠はちょっと大げさに話しているだけだ。おまえたちが本当にさらわれたら、金なんかアテにしないで雨瑠とふたりで乗り込むさ」
「だけど……」
「大丈夫だ。こいつは悪ぶっているが、本当のところは面倒見のいい男だ。心配しなくても、カッパの子はお婆さんに可愛がってもらえるし、仲間が流れてきたら一緒に川に帰れる。そうなったかどうか、俺がしっかり確認する」
「ほんとだな?」
「ああ」
少なくとも雪夜は海棠を信頼している。善良とは無縁だし、どちらかといえば悪い男だが、この男が獣医学部の学生だった頃、キャンパス内で世話していた家畜やラット達をどう扱っていたか知っている。それに、さっきもわざわざ指輪を外してまでカッパの子どもの頭を撫でようとしていた。金銭的価値にしか興味が無ければ、あんなことはしない。
最初のコメントを投稿しよう!