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「客商売は信用が第一だ。契約はきっちり守るさ」
海棠が悪びれずに言う。ちらりと白兎を見た。
「それにしても無警戒な家だな。だだっ広い敷地でケモノ耳生やした子どもを好きにうろつかせておくとか、俺のような悪いヤツに攫ってくれと言ってるようなものだぞ」
「そうでもないさ」
海棠は久瀬家のことを無防備で危険だと考えているようだが、雪夜はそうは思っていない。妖に対しては雨瑠がいるし、怪しい人間に対しては…。
「まあいい。受け入れ先の用意を先に整えてから迎えを寄越す」
と告げて、まだふたりして抱き合っている晴太と白兎にちょっと笑いかけた海棠は、母屋の玄関を出たところで「なるほどな」と独りごちた。
前庭の向こう、正門を入ったところに人影がふたつ。涼しい顔をして歩いてくる高宮と、その後ろから肩を大きく上下させながらついてくる夕聖。祓い屋にとって、妖側の代表である久瀬家への人の出入りは監視対象だ。そこはかとなく怪しい男が久瀬家を訪問している、などと最近よく顔を出す夕聖が報告したんだろう。
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