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「なんだそれ。ほっとくと何日でも大学の研究室に巣ごもりするから、時間がある時に連れ出してるだけだぞ。…比嘉がそう言ったのか?」
「ああ。転居の葉書が来ていたから一度電話してみたら、『海棠がかってにやった。僕は自宅がどこかも知らない』って言われたよ」
それで、海棠にカッパの子の引き取り手を探してもらおうと思いついたのだ。
「あいつ……あの馬鹿」
前庭を正門に向かって歩きながら、海棠が顔に手をあてて呻いている。雪夜は口元を緩めた。
「甘やかしすぎだな?」
「くそ。言うな」
「言うとも。君がいないとウチに帰れないなんて…いや、言ってる俺の歯が浮きそうだ」
「全部抜け落ちてしまえ」
ふ、と雪夜はほほ笑んだ。
「晴太達にあとで教えてやらないとな」
「なにを」
「俺は君の弱点を知っているって。だから大丈夫だと言えば少しは安心するだろう」
海棠が呆れ果てた顔をした。
「とことん弟バカだな?」
「比嘉が弱点だってことを否定すらしない君もな?」
海棠の拳が飛んでくる。ひょいと交わして、雪夜は先に立って歩き始めた。初夏の西日が眩しかった。
ー FIN ー
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