序章 悪夢

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ーーーーーー その夜、夕聖は夢を見た。 黒くけぶる炎の川の向こうに、一頭の銀色の獣の姿があった。月より濃い金色の瞳に憂いを浮かべて、こちらを見ている。 夕聖はどうしてか叫びたかった。 だが何を叫べばいいのか分からなかった。 炎が爆ぜて火の粉が散る。 銀色の獣がゆっくりと後ずさり、夕聖に背を向けた。そして真っ黒に塗り込められた山の中へと駆け込んでいった。 夕聖は燃え盛る川のこちら側にただ突っ立って、去っていく獣を見送るしかなかった。あの大きくて美しい毛並みの獣と自分とを隔ててしまったのは、火を放った夕聖自身だ。 あれはバケモノの類いだから遠ざけるべきなのだ。 いや、それだけで済ませてはならない。 (バケモノなんか炎に呑まれて焼かれてしまえばいいんだ) そう思ったとたん、空を赤く染めて逆巻いた炎が、ごうと唸りをあげて夕聖に迫ってきた。いつの間にか醜いバケモノになり果てていた夕聖は、炎と煙にまかれ、自らが望んだとおりに全身を焼かれたのだった。
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