171人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーーーー
その夜、夕聖は夢を見た。
黒くけぶる炎の川の向こうに、一頭の銀色の獣の姿があった。月より濃い金色の瞳に憂いを浮かべて、こちらを見ている。
夕聖はどうしてか叫びたかった。
だが何を叫べばいいのか分からなかった。
炎が爆ぜて火の粉が散る。
銀色の獣がゆっくりと後ずさり、夕聖に背を向けた。そして真っ黒に塗り込められた山の中へと駆け込んでいった。
夕聖は燃え盛る川のこちら側にただ突っ立って、去っていく獣を見送るしかなかった。あの大きくて美しい毛並みの獣と自分とを隔ててしまったのは、火を放った夕聖自身だ。
あれはバケモノの類いだから遠ざけるべきなのだ。
いや、それだけで済ませてはならない。
(バケモノなんか炎に呑まれて焼かれてしまえばいいんだ)
そう思ったとたん、空を赤く染めて逆巻いた炎が、ごうと唸りをあげて夕聖に迫ってきた。いつの間にか醜いバケモノになり果てていた夕聖は、炎と煙にまかれ、自らが望んだとおりに全身を焼かれたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!