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「あーきら。ようやく終わった?」
廊下ではふたり組の少女が待ち受けていた。長丁場になったせいか、ふたりとも膝を曲げてしゃがんでいる。そのうち髪色の明るいほう――真木がそういう座り方をしていると不良っぽい。
パン、とプリーツスカートについた埃を払って立ち上がると、彼女は悪戯っぽく笑ってあきらをねぎらう。
「捕物帖おつかれさん。バッチリ聴いてたよー。ナイスハッタリ」
「どうして私が……」
「適役じゃん? あたし、先輩とは仲良くしておきたいし」
自前にネモからもたらされた情報を美術部の彼女たちと共有して、乙戸辺から情報を引き出す作戦を立てていた。さすがにひとりで無策で立ち向かうほど、無謀ではない。
扉の向こうで真木と夏織が控えていて、いざというときには助けてくれる確信があったからこそ、あの場で引かずに強く出られたのだ。
あのあと交渉を粘ったら、ピエタ首像については乙戸辺が責任を持って写真部の部室に隠し続けてくれるそうで、教員たちには盗難の線で報告することで落ち着いた。
つまり、美術室にピエタはもう戻らない。人造乙女についても時期を見計らって葬るつもりだ。
「美術室が静かになるならなんでもいい」
そう言いつつも、夏織が投げてきたのはホットの紅茶だった。それもあきらの好きなアップルティー。
ペットボトルの蓋を開けながら、あきらは彼女たちに尋ねる。なるべくありきたりに、なんでもない感じで。
「ジェスター様探し、続けるけど。真木と夏織はどうする?」
「面白そう、乗った」
「暇なときだけ付き合ったげる」
渇いた喉を潤してくれる甘い紅茶を飲み下しながら、あきらは二人に悟られないように表情を隠しておく。やはり持つべきものは友だ。大丈夫だ、〈テラリウム〉にはネモだっている。
――くだらない呪いなんかに、私たちは負けない。
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