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「洋子さん、痛み止めの薬を持ってきてちょうだい」
「はい」
志村洋子はめぐみよりはるかに年上だ。
望が産まれてから面倒をみてもらうために雇ったのだ。
望を産んだのはめぐみだが、育てたのは洋子だといっても過言ではない。
それなのに、とめぐみは苛立ちと失望の混じった気持ちで洋子の白髪の目立つ頭を睨睨んだ。
「あなたもねえ、望が出て行くのに気付かなかったの?」
「申し訳ございません。シェリーの散歩に行ったようでしたので、まさかそのまま帰ってこないとは思わなかったんです」
差し出された薬と水の入ったコップを受け取り、口に含んだ。
彼女を責めても仕方がない。
実際、彼女が今までどれほど尽くしてくれたか、めぐみはよくわかっていた。彼女がいなければ仕事を続けることはできなかっただろう。
ごくりと錠剤を飲みこむと、空になったコップを彼女の方に押しやる。
「で、家出だと思う?誘拐だと思う?」
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