9.ハッピーエンドは作れない

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9.ハッピーエンドは作れない

 どちらの親も、身を屈めて一心に子供の言葉に耳を傾けている。 「何だってこんな簡単なことができなかったんでしょうね?」 「本当にね。もめ事には第三者を(はさ)めってよく言うけど、物事が大きければ大きいほど、当事者同士だけの話し合いってうまくいかないものなのよね」  由目木は小さくため息をついた。 「だからって、他人がちょっと入っただけで上手くいくわけでもないと思うんですけど」 「そもそも、家族が円満に別れる方法なんてあるのかしらね」 「離婚は今より良くなるための選択、のはずです」  大木の言葉に由目木は弾かれたように目を見張った。  とたんにマスカラをたっぷり塗った睫毛に縁取られた目が一層大きくなり、大木はその迫力にたじろぐ。 「な、何ですか」 「大木君はたまに、いいことを言うね!」 「たまにって何ですか。僕はわりといいことを言っていますよ。少なくとも由目木さんよりは常識人ですから」  そう言った大木の言葉を由目木はもう聞いていない。
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