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プロローグ(3)
――花帆、今日はとっても天気がいいわ。一緒に縁側でお団子食べましょう?
――うん! 私、いそべ団子が食べたいな~。
――ふふ、わかった。花帆の、今一番のお気に入りだものね。
何度も何度も、この家でお団子を一緒に食べ、たくさん話をして笑いあった。
「……っ、うぅ……」
明日も明後日も一年後もその先も、やえおばあちゃんはそばにいてくれると思っていた。
「おばあちゃん……本当にいなくなっちゃったの……? ねえ、返事して……。やえおばあちゃん……!!」
なかば悲鳴のように遺影に向かって声を上げる。けれど返事はあるはずもなく、私の荒い呼吸だけが四角い空間に響くだけ。後悔とも悲しみとも判別できない、どうしようもない気持ちがあふれそうになったとき、家の電話が鳴った。
正直出る気にはなれなかった。でも担任の先生がすごく心配してくれていたのもあって、学校からかもしれないと思うと無視することもできない。動きが鈍くなっている体を引きずって受話器を取った。
「……はい、もしもし」
「もしもし、花帆ちゃん?」
「叔母さん」
電話の向こうで私の名前を呼んだのは、お母さんの妹――私にとっての叔母さんにあたる人――だった。
「えっと……こんばんは。お葬式の時にはお世話になりました。ありがとうございました」
叔母さんは、やえおばあちゃんの葬儀やもろもろの手続きなど私だけではできないことに手を貸してくれた。私自身これまであまり連絡を取ってはいなかったのに、一番にかけつけてくれて本当に助けられた。
「いいのよ、当たり前のことなんだから。だって花帆ちゃんは姉さんの大切な娘なんだもの。いつでも力になるわ。それより……花帆ちゃん、大丈夫?」
「……、すみません。何て答えたらいいか……」
「ううん、大丈夫なわけないわよね。私がいけなかったわ。……突然のことだったものね、気持ちに整理がついていなくても無理ないと思う」
叔母さんの気遣う気持ちをありがたく、そして申し訳なく思う一方で、気持ちの整理なんてできるのか分からず何も返す言葉が出てこない。そんな私の胸の中を察しているのかいないのか、数秒の沈黙ののちにこわごわと再び話を始める。
電話の向こうから伝わる空気に、嫌な予感がした。
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