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1.自分が嫌い【冬樹】
僕、久藤冬樹は自分が嫌いだ。
予定をキャンセルされてすぐに彼の浮気を疑う自分が嫌い。
そして、疑いが本当だったとわかっても、彼を拒めず許してしまう自分が嫌い――。
◇
僕はオメガで、運命の相手と付き合ってる。まだ大学生だから 番にはなっていない。
卒業次第、番になって結婚する予定だ。
運命の相手と付き合えるなんて、ロマンチックで羨ましいと人は言う。
だけど現実は違う。
ロマンチック?
そんな風に思ってたのは中学生のときまでだ。
その後は……彼の浮気癖に悩む日々――。
運命の相手なのに浮気なんてするの、だって?
するね。ソースは僕の彼。
彼は見た目で言えば文句なしの美形。短めの黒髪に切れ長の目。男らしい眉と歯並びの良い大きな口。鍛えられた筋肉質な身体。アルファの例に漏れず、文武両道の御曹司だ。将来は企業のトップの座が約束されている。人望も厚い、リーダータイプ。
オメガを蔑んだりしないし、すごく優しい。
どこへ行っても気持ちよくエスコートしてもらえる。彼と一緒にいて不快になる人なんていないと思う。それぐらい完璧。
だけどひとつだけ問題がある。彼は報われない恋に恋してる。
運命のオメガと付き合っていながら、無い物ねだりをするように手に入らない相手に惹かれてフラフラと追いかけて行ってしまう。
「手に入らないと思うとつい、魅力的に見えてしまうんだ」
恋人である僕に対して彼は「冬樹は俺のこと、わかってくれるよね?」と言う。
そして、失恋した傷を癒そうと僕のところへ戻ってくる。
「やっぱり冬樹が一番安心する。好きだよ冬樹」
こんな甘い言葉を囁きながらベッドを共にすれば、簡単に関係を修復出来ると思ってる。
そしてしばらくするとまた、誰かの奥さんや恋人に目移りしてこう言う。
「俺たちは完全に上手く行ってる。でも人生には障害もつきものだよね。俺たちは卒業したら番になって、結婚する。それまではお互い自由に楽しもう。将来を一緒に乗り切るために、今だけは」
彼が運命に逆らおうとするのは無理もない。僕は見た目も平凡で、何の取り柄もない。他にもっと綺麗なオメガはいるのにどうして僕なんかが彼の運命なんだろう。
彼は本当に可哀想だと思う。彼が僕と付き合ってるのは、運命の番が縁起の良いものだと思われているからだ。普通は出会えないような相手だし、相性が良いから優秀な子孫を残せると信じられてる。
彼自身がそんなことを信じてるかわからないけど、親世代はそういうことに敏感だ。だから、一族のために僕との婚約を我慢して受け入れてるんだと思う。
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