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2.冬樹のことが好き【豪】
俺、 神林豪は久藤冬樹のことが好きだ。
俺が冬樹との予定をキャンセルした時、何とも思ってないという態度を見せながらも、実は揺れている彼の瞳が好き。
そして俺が他人との恋に敗れたふりをして彼の元に帰ると、怒ったような声を出しつつホッとした顔をするのが死ぬほど好きだ。
気が狂いそうなくらいに、俺は冬樹のことを愛してる。俺の気持ちを全て知っている友人は「お前は病気だ」と言う。
やり方を間違ってるって事はわかってる。俺のせいで冬樹が傷ついてるのも知ってる。
――でもやめられない。
彼が運命の番だってことは俺の方が先に気付いた。俺は検査結果を見る前から自分がアルファだという自覚があったし実際そうだった。そして、検査の前から冬樹が俺のオメガだという事もわかっていた。
――運命の番。
そんな相手と出会って付き合えば幸せが約束されてるんだと思ってた。
だけど、実際は違った。
自分の運命の相手を知ってしまってから、相手が誰かのことを気に入って仲良くしていようものなら嫉妬で我を忘れそうになる。独占したくて、俺以外と話してほしくなくなる。
そして、そんな心の狭い人間になってしまったことに愕然とする。愛する相手を閉じ込めてどこにも行けなくしたい、誰とも話せなくしたい。
だけど、こんなダサいことを考えてるのが冬樹にバレたら引かれるのは間違いない。必死なところを見せたくない。
彼にはもっと余裕のある男がふさわしい。素のままの俺の醜さを彼にだけは絶対知られたくない。
冬樹にがっかりされるくらいなら死んだほうがマシだ。
俺と冬樹の気持ちには温度差がある。それは最初に出会った頃からわかってる。
俺が初めて冬樹を見たのは、中学一年の春だった。見た瞬間、運命の相手だってわかった。目を逸らせなくなって、こっちを見て欲しくて視線を送り続けていた。
だけど、冬樹はたまに目があってもすぐに視線を逸らしてどこかへ行ってしまった。彼は俺のことを運命の相手だとまだ気づいていなかったのだ。
第二次性徴には個人差がある。彼の肉体がまだオメガとして目覚めてないから、俺に気づかないのかもしれない。
その年の夏に出た検査結果で第二の性がはっきりした。俺はアルファで、やはり冬樹はオメガだった。
クラスは別だったが、合同の体育の時など彼の姿を目にする機会はあった。オメガの彼はアルファのいる体育を見学で済ませることが出来た。準備体操以外は、教師の手伝いだけして試合などは見学していることが多かった。
体育教師は生活指導員も兼ねており、日頃からオメガの冬樹によく話しかけていた。彼はベータだったが、俺はそれが気に食わなかった。
高校に入学し(当然冬樹と同じ学校を選んだ)冬樹が発情期を迎えるようになったのを機に俺は彼と付き合うことになった――というか、有無をいわせず交際を受け入れさせた。
彼は抑制剤があまり効かないタイプで、ヒートを一緒に過ごすパートナーが必要だった。俺はそれを理由に彼に交際を迫った。
運命の相手だということを彼もその頃にはわかっていたようで、俺の申し出を断らなかった。
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