3.最低な彼【冬樹】

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3.最低な彼【冬樹】

珍しく豪が「この前約束をキャンセルした埋め合わせに」とデートに誘ってくれた。映画なんていつぶりだろう。 結婚を見越して彼の父親の会社が主催する華やかなパーティに婚約者として引っ張り出されたり、彼の家族との旅行に同行させられることはよくある。いわゆるセレブの集まりだ。僕の実家は公務員の父と研究者の母という中流家庭だ。だから華やかな場はあまり好きじゃない。それより水族館とか、テーマパークとか、普通のデートが僕は好きだ。だけど、そういう場に豪と行くことはあまりなかった。 なので、彼との映画デートを僕はとても楽しみにしていた。 「見て、冬樹。あのレジの女の子。すごく可愛い」 笑顔の可愛い女性が映画館のフード販売のレジに立っていた。 「すごく若く見えるだろ? でも、左手の薬指に指輪してるんだよね……」 ああ、そういうことか。 お気に入りの女の子を見るのが目的だったんだ。 しかも予め目をつけてる子がいるってことは最近この映画館に来たということだ。 誰と? 僕は誘われてない。 豪が一人で映画館なんて来るわけもない。誰でも知ってるような名作すら見ていないんだ。映画配給会社の業績がどう、という話には興味があっても映画の内容自体には興味が無い。 そんな彼が今日選んだのはラブストーリーだった。どうしてこんなのを見るのか不思議だったけど、単にタイトルで選んだだけみたいだ。 ポップコーンとドリンクを買ってシアターに入り、上映開始20分もせずに豪は居眠りを始めた。 僕は思いがけず心を揺さぶられる悲恋に涙して見入ってしまった。しかし彼はエンドロールが終わって照明が点くまで目を覚まさなかった。 「あれ? 終わったのか」 「うん」 「なんか、つまんなかったな」 「そうだね……」 映画館を出たところで豪はそう言った。僕はたくさん泣いたけど、気づかれなくてよかった。 ◇ それから数週間後、夜中寝ていたらいきなり豪が僕の部屋にやってきた。 気配を感じたけど寝たふりを続ける僕に向かって彼が言う。 「冬樹~。あの子、だめだった」 狙っていた子に振られたらしい。 「慰めてよ、冬樹」 また始まった。勝手に浮気して、振られて傷ついたと言って僕に甘えてくる。 「いい加減にしろよ。何時だと思ってるんだ?」 「俺の運命の番は冷たいなぁ」 こんな奴今すぐ部屋から蹴り出してやりたい。 なのに出来ない自分が情けなかった。
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