5.虚しい気持ち【冬樹】

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5.虚しい気持ち【冬樹】

僕はすごく飢えていて、たまに与えられる上等な肉にあさましく必死で食らいつくしかない。 「ほらよ、これが欲しいんだろ」って思われてるのは頭ではわかってる。 彼は報われない恋を楽しんで、最後に帰巣本能みたいなもので僕のところへ戻る。そして心にもない「好き」「愛してる」「冬樹だけ」という言葉を甘く囁く。 絶対に最後は僕が拒めないのを知ってて、僕の心が折れるのを見て楽しんでるんだ。 自分より哀れな敗北者がいるって確かめたいのかもしれない。 それでも、僕は嘘つきな豪のくれる最高の快楽に抗えない。「好き」って言いながらキスされて体を少し触られただけで頭がくらくらする。怒ってたはずなのに、僕のそこは濡れ始めてアルファを受け入れようとする。 豪が勝ち誇ったような顔で挿入してくるのが腹立たしいのに、背筋がゾクゾクして声が漏れる。感じてるのがバレるのは嫌だから顔を背けると、意地の悪い顔をした豪に唇を塞がれる。そうすると鼻で息をするしかないので、至近距離で彼のフェロモンを吸い込むことになる。 こうなったらもうだめで、豪の思う壺だ。 僕は彼の望み通り、彼に屈服して淫らな体勢で自ら腰を振りさえする。 「触って」「もっと」と言うと彼は喜ぶ。酷い扱いをされても僕が彼を受け入れてしまう滑稽さを内心笑ってるんだろう。 それでも、彼はこの瞬間僕だけを見てくれる。しかもいつも以上に情熱的に僕を求めてくれるのだ。 ヒートの時は必ずネックガードを付けられ、彼もスキンをつけるのを忘れない。彼が僕の妊娠を望んでいないからだ。だけど、失恋した後僕を抱く時、彼は必ず中に直接出す。よくわからないけど興奮しているんだろう。 アルファの精液を粘膜が吸収すると、オメガの肉体はとてつもない快感を得る。妊娠しようとして、勝手に内部が収縮するのを自分でも感じる。 出された後は気持ちよくて頭が真っ白になりしばらく動けない。何か話しかけられても、頭がぼーっとして自分でも何を言ってるかわからない。 そして、少し休んで頭がはっきりしてきたら僕は一目散にバスルームへ駆け込む。シャワーを浴び、中の精液を掻き出す。愛する人が中に出したものを必死で外に排出し、内側を洗浄するのだ。こんなに虚しいことはない。 しかも、体を洗って部屋に戻る頃にはもう彼はいなくなっている。やるだけやって、僕の心をぽっきり折って満足したら挨拶もせず帰っていく。 毎回こうだとわかっているのに、涙が出るのを止められない。僕は泣きながらアフターピルを飲む。その後の副作用で僕が寝込んでいることすら彼は気付いてもいないだろう。 運命の番なんて、現実はこんなもの。
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