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7.嫌な予感【冬樹】
それからしばらくして彼はまた新しい「恋」を見つけ、僕との約束を反故にすることが増えた。僕はそれを気にしたくなくて、大学の研究室にこもるようになった。
「先輩、それでいいんですか? そんな男ふっちゃえばいいじゃないですか」
「ん~? そうだね。でも、誰と付き合ってもどうせ同じだから」
「そんなことないです。お、俺とか……一途なタイプですし」
「うん。遼太は一途そうだね。真面目だし」
「そ、そうですか!?」
ゼミの後輩の遼太が嬉しそうな顔をする。勉強熱心で研究の手伝いも良くしてくれる可愛い後輩だ。彼にも現在好きな人がいるというので、お互い恋愛相談をし合う仲だった。
「それよりここの数字いくつだっけ?」
「あ、ここは……」
実験のデータを整理し、遼太と一緒に研究室を出る。
「先輩、お腹すきません? よかったらどこかで……」
「あー、ごめん。なんか最近胃の調子悪くて。このまま帰るよ」
「大丈夫ですか? そういやここのところ、顔色あんまりよくないです。寝られてます?」
「ん~、ちょっと寝不足かな」
帰宅して、なんとなく熱っぽいような気がしたから体温を測る。
「37.0度か。なんかほてるような感じすると思ったら風邪引いてたのか」
他の学生に移してはまずいので、遼太に明日からしばらく休むとLINEで伝えた。教授にはメールをしておく。
◇
しかしその後3日経っても、4日経っても熱が下がらなかった。さすがにずっと休むわけにはいかないので、はずせない授業には出て研究室にも顔を出した。しかしずっと眠いし、たまにめまいもした。
なるべく早く帰宅するようにはしていたが、とうとう学内のトイレで吐いてしまった。しかも間の悪いことにそれを遼太に気づかれた。
「先輩、やばいですよ。悪い病気だったらどうするんですか。はやく病院行ってください!」
なんとか隠そうと思っていたがここまで来たら無視はできない。本当は嫌な予感がしていて、これがただの風邪じゃないということはわかっていた。
「ごめん、帰るわ。明日も休むから先生に言っておいて」
帰りがけにドラッグストアに寄った。自宅のトイレで僕はソレを呆然と見つめる。
妊娠検査薬の判定欄にくっきりと線が浮かび上がっていた。
「どうすんだよ、これ……」
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