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オシャレなバーで、カクテルを飲む。
さっきまで隣にいた友人は、彼氏から電話が来て外に出た。戻ってくるまでの間は、はじめてのバーと言う、大人デビューをしたこのひと時を噛み締めて居よう。
そう、決めたのに…
「 めぐみだよな? 」
「 誰ですか 」
「 俺だよ、なつめ! 」
「 あーね 」
確かこいつは、学生時代に微妙にモテて勘違いをしていた痛い男。めんどくさい。絡んでこないでくれ。目線で訴えるが、隣に座ってくる。
「 臭い 」
「 お酒飲んでるからね〜 」
「 違う、本当に臭い 」
多分これは、体臭だ。香水でうまく隠そうとしているのだろうが、それが混ざり合うことでなんとも言えない匂いとなり刺激する。
「 めぐみ、彼氏いるの? 」
「 あ、無視?離れてほしいんだけど 」
臭いと言っているのに自分だと思っていない、ポジティブなところ、良いと思うぜなつめ。だけど、鼻が曲がる前には離れてくれよ本当に。
マスターも苦笑いで別のカウンターのお客さんの前に去っていく。
「 あのさ、あの時した約束、覚えてるかな? 」
頬を染めながら、手を握ってくる。
「 …は? 」
身体中に鳥肌が立ち、咄嗟に手を振り解く。一緒に来ていただろう友人たちは、奥のボックス席で騒いでいる。一人いねえだろ。気付け。
「 あの、桜の木の下で、将来の約束したことだよ 」
「 何それ全く記憶にない 」
確かに、イケメンだとは思う。だけど、何もかもが残念なイケメンだ。約束の話なんて覚えていないし、何よりその目は何だ、その目は。
そもそも学生時代もそんなに話したことはない。何なのだ一体。
「 将来、どこかで偶然会うことがあれば、もう離れないって約束。あの時、俺に話してたよね? 」
「 …え? 」
恋愛ドラマみたいなシチュエーション、記憶にないぞ本当に。
放心状態になっていると、無理やりに連絡先を交換され、一方的なマシンガントークで攻められる。
逃げ場のない状態に困っていると、友人がやっと戻ってきて、疲れ切った私を見て全てを悟ったのか、お会計を済ませて連れ出してくれた。
「 めぐみ、またな! 」
叫ぶあいつに背を向けて、重たい扉を開いた。
「 さっきのナンパ? 」
「 いや、多分学生時代の同級生 」
「 イケメンだったけど、何か変な匂いしたね。やめときな 」
「 当たり前 」
そして飲み足りないと、2件目のバーへと向かう。初めてのバーデビューは悲惨なことになったから。
二日酔いの朝、目覚めるとなつめからの連絡が。内容はあの約束のこと。
しつこいと思いながら、送られてきた桜の木の写真に、全てを思い出した。
学校の近くの公園で、野良の子犬を飼えない代わりに学校終わり世話をしていたのだが、暫く経ったある日、車に敷かれてその子はこの世を去ってしまった。供養したいと、公園にあった桜の木の根元を掘り、小さなその体を埋めた。
確かその時に、昨日なつめが言っていた言葉を発した気がする。
きっとそれがたまたまそこに居合わせた自分に言っている言葉だと、勘違いしたのだろう。
変にモテてたせいで。
なんでも、ここ暫く彼女も出来ずこの先一人だと焦っていたのだが、私と運命的な再会が出来たのだそうだ。送られてくる内容も、既に付き合っているかのようなものばかり…
私はそっと、なつめをブロックしたのであった。
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