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「『上位者』? ああ、人が我らを呼ぶときの……。アーシャ、そんな呼び方は他人行儀に過ぎる。どうか、いつものように『フィデル』と呼んでくれ」
(『上位者』の真名!?)
伝えられた瞬間に、それが目の前の『上位者』を表す唯一の言霊だとわかった。
けれど呼べるはずなどない。いくら相手から伝えられたとはいえ、見知らぬ『上位者』の真名を不用意に呼べば、何が起こるかわからないのだから。
「あの、あなたは……」
「『フィデル』」
「あなたは、ここに何をしに……」
「『フィデル』と呼ばなければ答えない」
「…………フィ、フィデル」
大きな、とても大きな葛藤の末に、セーラはその名を呼んだ。呼んでしまった。
そうしなければ話が進まなさそうだというのもあったけれど、セーラが『あなた』と呼ぶ度に、『フィデル』と名乗った『上位者』の瞳に傷ついたような色が揺れるのに負けたのだった。
「! ああ、やはりアーシャに呼ばれる感覚は格別だ。私を歓喜に包んでくれる」
「……あの、私は『アーシャ』ではないのですが」
「? 何を言っている。俺がアーシャを間違えるはずがない」
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