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十五夜の訪問者。
まだ熱の冷めない風が吹く夜。
仕事を終えた俺は、歩きながらハンカチでおでこの汗をぬぐった。ついでに首のねっこ辺りもぬぐう。
さすがに真夏程の暑さはなくとも、歩いていれば普通に汗をかくくらいには、気温が高い。
まだまだ秋とは言えない季節だ。
だが、それでも空は少しずつ変化している。
今もそうだ。すっかり暗くなった空を見上げた。
八月終わりくらいには、もこもこと綿飴みたいだった雲も、いつのまにかうろこのように細かくなり、高くなっていた。
午後八時半ともなれば、真っ白く光を放つ月が、隣に星を一つたずさえて輝いている。
――さすがに九月は月が綺麗だな。
ふう、と一息吐いて、がさり、とバッグと共に抱えた袋を揺らす。
袋の中身はコンビニで見つけたみたらし団子だ。
本当は家に作り置きしていた月見団子があるのだが、さすがに真っ白いだけでは面白みがない、と思った。
……と言うのは口実で、ただ単に、好物なだけだが。
一人暮らしなのだから、ちょっとくらい邪道でも許されると思う。
そんな風に言い訳をして、ほんのり抱えた罪悪感を振り払い、家へと足早に歩いていく。
だが、突然目の前に、ドスン、と音を立てて何かが落ちてきた。
「――いってて」
それは、見る限りただの、白いウサギだった。
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