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おっさんなウサギ。
夜道で目の前に落ちてきたウサギは、奇妙なことにスーツを着ていた。
それも、仕事終わりの俺のように、着崩しながら。
「ああまったく、故障してやがった」
ウサギは悪態を吐きつつ立ち上がって埃を払う。それから、パッと俺の方に顔を向けた。
「ん? なんだ、人間がいたのか」
まん丸い目を赤く光らせながら、俺の方にトコトコと近づいてきて、見上げる。
「なあ、ちょっといいか」
「え、ああ……」
二足歩行で、人の言葉を吐く、落ちてきた白ウサギ。
問いただす気力もなく、ため息交じりの相槌に、ウサギは顎に手を当てて言った。
「あんたの家、酒と団子あるか?」
「…………は?」
俺は今日、ちょっと疲れているらしい。
そもそもの話。真夜中に突然ウサギが目の前に落ちてくるとかありえないのだ。ウサギに羽などないのだから。
その上二足歩行することは骨格的にも不可能なものだ。ウサギはその耳と飛び跳ねて高速に逃げるからこそ、ウサギなのだ。
極めつけに人の言葉を吐いたと思ったら「酒」と「団子」だと。
「いやいやいや、おっさんか」
「あ”?」
「あ、いや」
さすがに怒ったのだろうか、と後ずさる。が、ウサギは、やれやれ、と言った風に前足をひらひらさせた。
「当たり前だろ。ウサギだって年取るんだよ」
「え、えー……」
もはやウサギと言っていいのだろうか、と不安を覚えつつ、家へと連れ帰った。
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