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初めての、お月見
盃に口を付けたウサギは、さっきまでまん丸にしていた目を細め、へらっと笑った。
俺も口を付けつつ、軽く笑う。
「おっさんだな、まじで」
「だからそう言ってるだろう」
一杯目をすぐ飲み干したウサギは、自分で酒を注ぎながらにやつく。
だが、それに口を付ける前に、ふっと息を吐いた。
「まあでも、月見酒自体は、初めてだがな」
「え、そうなのか?」
叫ぶと、思いの外声が響いた。近所迷惑だったかもしれないが、どう見ても慣れているように見えるこのウサギの言葉に、なかなかどうして、驚きを隠せない。
「できねーのよ」
ボソッと呟いて、また盃で揺れるそれを飲み干す。
「なんせ常に月にいるんだからな」
「ああ、そりゃあそうだな」
納得だ。月に居たら地球は見えても月は見えるわけがないのだから。
しかしまあ、そもそもウサギが月見というのも、変な話ではあるが。
「……お前、さては酔ってるな?」
考え込む俺を横目に、小さな盃を揺らしながらウサギが言う。
「まあ、な」
軽く笑って、盃を下ろした。
そもそも俺は、酒にそこまで強くない。特に日本酒は身体に合わないのか、酔いやすいから。
皆まで言わず、みたらし団子を一つ口に運ぶ。
ウサギもまた、それ以上は何も言わずに月見団子へ手を伸ばすと、頬張った。
「……うん、悪くない」
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