初めての、お月見

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

初めての、お月見

 盃に口を付けたウサギは、さっきまでまん丸にしていた目を細め、へらっと笑った。  俺も口を付けつつ、軽く笑う。 「おっさんだな、まじで」 「だからそう言ってるだろう」  一杯目をすぐ飲み干したウサギは、自分で酒を注ぎながらにやつく。  だが、それに口を付ける前に、ふっと息を吐いた。 「まあでも、月見酒自体は、初めてだがな」 「え、そうなのか?」  叫ぶと、思いの外声が響いた。近所迷惑だったかもしれないが、どう見ても慣れているように見えるこのウサギの言葉に、なかなかどうして、驚きを隠せない。 「できねーのよ」  ボソッと呟いて、また盃で揺れるそれを飲み干す。 「なんせ常に月にいるんだからな」 「ああ、そりゃあそうだな」  納得だ。月に居たら地球は見えても月は見えるわけがないのだから。  しかしまあ、そもそもウサギが月見というのも、変な話ではあるが。 「……お前、さては酔ってるな?」  考え込む俺を横目に、小さな盃を揺らしながらウサギが言う。 「まあ、な」  軽く笑って、盃を下ろした。  そもそも俺は、酒にそこまで強くない。特に日本酒は身体に合わないのか、酔いやすいから。  皆まで言わず、みたらし団子を一つ口に運ぶ。  ウサギもまた、それ以上は何も言わずに月見団子へ手を伸ばすと、頬張った。 「……うん、悪くない」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!