一期一会

1/1

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

一期一会

 ウサギはそれの言葉を最後に、口を閉じ、静かに酒を呷った。  俺もウサギが手に付けないみたらし団子を片手に、時々日本酒を口に運ぶ。  頭上では、隣のウサギと同じ、白く輝く月が、ゆっくりと流れていった。 「――なあ、あんたは、」  どれくらい経ったか。突然ウサギが口を開いた。  ほろ酔い気分で、なんだ、と聞き返せば、ウサギもほんのり赤くなった鼻の頭をこすりつつ、呟く。 「人生楽しんでるか?」  人生? とまたオウム返しをする俺に、ウサギはもごもごと小声で続ける。 「いやあ、さ。まだ若そうだから。聞いてみたくてよ」 「まあ、そこそこな」 「そこそこか」  繰り返して、ウサギは瓶に残った日本酒をすべて盃に注ぐと、一気に飲み干す。 「――羨ましいぜ」  きっと彼の本音なのだろう。俺はただ、空になった団子のパックを遠くへ放り、少し雲にかかった月を見る。  するとウサギは、それまで前に垂れていた耳をピン、と立てた。 「時間だ」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加