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ようやく目を開けると、味方の兵がシャクバン兵と斬り結んでいた。
「師匠……!」
師匠と呼ばれた男――ティロクは、ただでさえ皺の増えた顔をさらにしわくちゃにして敵兵を睨みつけていた。
「師匠じゃない……隊長だ!」
そう言い放つと、ティロクは兜の下の白髪からは想像できないような力強さでシャクバンの剣をはねかえし、怯んだところを一気に畳みかけて斬り殺した。
「戦場で隙を見せるとは修行が足りんな」
「すみません、師匠、いや、隊長。でもまさか、奴ら岸壁をよじ登ってくるなんて……」
「いいからさっさと兜をかぶれ!敵もそれだけ必死ということ……何としても守り切るぞ!」
「……はい!」
拾い上げた兜をかぶりながら、ハクヤは力強く頷いた。
師匠の言うとおりだ。この城壁は、北方で遊牧を営むシャクバン族と南側で農耕を営むハクヤたちシンイ族を隔てる、まさしく境界となっていて、城壁に唯一設けられている城門――玉城関が閉ざされている限り、シャクバン族は歩兵で攻め寄せるしかない。だがここを抜かれればシャクバンは自慢の騎馬軍団を繰り出し、シンイ族をなすすべもなく蹂躙してしまう。
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