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戦闘
どこまでも広がる草原に、一本の川が蛇のように横たわっている。普段であれば澄んだ水が青空と白い雲を映し出しているが、今日は赤い澱みが漂っている。
その流れを遡れば、切り立った岸壁の上から金属のぶつかり合う音と鬨の声が聞こえてくる。川べりの城砦では、まさに血で血を洗う戦が繰り広げられていた。
「ハクヤ!後ろだ!」
味方の叫び声にハクヤと呼ばれた少年は素早く身を屈めたが、剣の切っ先がかすめて兜の緒を斬られてしまった。頭頂部が少し尖っているほかには特に飾り気のない兜が石ころのように転がり落ち、その下から黒く艶やかな髪が現れた。
ハクヤは今年で齢十六。その若さにシャクバン族の兵の動きが一瞬鈍り、緑色の瞳を見開いたところを、ハクヤは振り向きざまに剣で斬り上げた。敵兵は盾を構えるのも間に合わず、動物の革で作った鎧が真っ二つに切り裂かれた。その瞬間、倒したことに一瞬でも気が緩んだのを咎めるように、舞い上がった血飛沫が目に入って視界を遮った。
急いで袖口で目を拭うが、その隙を狙って別のシャクバン兵が斬りかかる。気配でわかる……間に合わない。そのとき、近くに雷が落ちたかのような激しい剣戟の音が鳴り響いた。
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