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約束は守るけど、重い愛から逃げたい僕
一軒の家の前に二組の母子がいた。
一組目の方は、まだまだ若い年代の母親がお辞儀をしており、母親の傍に立っている小学一年生の女の子が所在なさげにしていた。
二組目の方は、少女と同じ年齢であろう小さな男の子と5歳ほどの小さな女の子を連れた、こちらも若い母親がお辞儀をしていた。
若干泣きべそをかきながらも、母親に優しく催促される形で母親の前に出てきた少女は、おずおずとお辞儀をした。
「えっと……、にのまえ・みずほ、です」
顔を赤く染めて母親の後ろに隠れる女の子に対し、男の子はニッコリと破顔し、元気よく挨拶を返した。
「ぼくのなまえは、しのの・ゆずき、です!」
「よかったら、ぼくとおともだちになってください!」
※※※※※※
午前10時。駅前の広場の目印になっている大きな洋式時計が、正確な時刻の訪れを告げるべくメロディーを流し始めた。
明るくゆるやかなテンポで電子音が広場中に流れていき、広場を急ぐ人の群れは目的のホームへとわき目も降らず向かい流れていく。
今日は日曜日。
この日にも仕事がある者、塾へと向かう学生、電車を利用してどこかへと遊びに行こうとする子供連れの大人。
多種多様な目的で駅に足を運ぶか、広場から街中へと散らばって行く客を横目に、一人の女子高生がぷりぷり怒っていた。
二野前 三洲穂は怒っていた。
なぜなら、勇気を出してデートに誘った篠野 柚葵が待ち合わせの時間に姿を現さないからだ。
「……んもう、今日は約束のデートの日なのに、まだかなあ……」
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