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その時私は、奇妙な浮遊感を感じていた。
まるで空を飛んでるような、空を彷徨っているような奇妙な感覚…。
だが気がついたときには私の身体の下には、上から見た都市の風景が一面に広がっていた。
ここは何処?
私はどうしてしまったんだ?!
あまりの事態の急変に私は何が何だかわからないままかなり狼狽えた。
ここは、
ひょっとして、
空の上ではないのか?!!
何故私は空の上にいるのか…??!
ただ、ただ、訳がわからなかった。
だがその時、私の身体の腕や手に、何かが巻きついていることに気がついた。
それは夥しい数の傘の柄だった。
かなりの数の傘の柄の部分が、私の手足に巻きついていて、それが私を空の上で支えていることに気がついた。
何が起こってるの…?
よくよく周りを見渡すと、どうやら私は今、空を飛んでいた。
夥しい数の傘の群れと一緒に…。
私は、都会の風景を空の上から見下ろしながら、ただただ空を舞っていた。
心地良い風に吹かれながら。
私は大量の傘と共に空を飛翔し続けた。
しばらくすると、大量の傘は、私を地上に着地させたが、気がつくといつの間にか何処かに消えていた。
傘の群れが一体何だったのか、訳がわからず、まるで夢でも見たような気分だったが、地上に降りてから周りを見渡してみると、目の前に大きな病院があった。
ひょっとしてここに連れてきてくれた…?
そんな半信半疑の気持ちではあっても、確か意識が朦朧として頭の中が痺れて、体も少し痛くて私はさっき倒れたんだということを思い出した。
そのまま目の前の病院に入って行き治療を受けることにした。
医師の診断を受けると、私はそのまま入院することになった。
このところきちんとした食事をとっていなかったので、そのことで頭と体がふらついて意識がなくなったらしいのだが、体が痛かったのは内臓に疾患があるかららしかった。
これから詳しく検査をしていくことになるとの事だったが、どうもあまり私の体はおもわしくないらしい。
入院し、ベッドに寝かされると、それからそこが、しばらくの私の住処となった。
入院生活は退屈だった。
新しく働き始めたパートは会社に迷惑がかかるといけないのですぐ辞めることにしたので問題なかったが、私にはもう身内もいないし、前の会社を辞めてからそこの同僚社員とも疎遠になっていたので、私の見舞いに来る人は誰もいなかった。
だが私が寝転んでいるベッドの横には、ちゃんとあの人の影が横たわっていてくれた。
私はあの人の影に抱きつくような姿勢でベッドの中で眠り続けた。
そのうち日が経って、それまで全く気にならなかった共同病棟の隣のベッドの人のことが少し気になり始めた。
私とほぼ同年代の男性。
盗み聞きしたわけではないが、どうやら癌を患っているらしい。
ひょっとしたらもう先が長くない人なのかもしれない。
だが私がその人のことが気になりだしたのは、そんなこと故ではない。
その人のことを私はどこかで見たことがあるような、会ったことがあるような気がしていたからだ。
誰かに似ていた。
それも私にとってとても大切な人に……
その人は、あの人に、とてもよく似ていた。
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